Hi-STANDARDの全国ツアー『THE GIFT TOUR 2017』新潟公演が11月4日、朱鷺メッセ新潟コンベンションセンターで開催された。昨年12月に東北+新潟で実施された17年ぶりのツアー『GOOD JOB! RYAN TOUR 2016』以来となる『THE GIFT TOUR 2017』では、全国13会場のライブハウス&アリーナ会場にて敢行。アリーナ会場を含むツアーは彼らにとってこれが初めて、また大々的な全国ツアーは実に18年ぶりということもあり、新潟会場にも世代を超えて多くのロックファン、パンクキッズが集結した。
ツアー4本目となる新潟公演は昨年12月8日の新潟LOTS以来11ヶ月ぶり、しかも難波章浩(Vo, B)の地元だ。彼の故郷でアリーナクラスのライブができることはメンバーにとっても、そしてファンにとってもこの日は感慨深いものがあったのではないだろうか。
この日はHEY-SMITHがゲストアクトとして、トップバッターを務めた。猪狩秀平(Vo, G)はステージに登場すると「ハイスタの前に俺たちが奏でるパンクロック、食らっていけ!」と叫び、疾走感の強いパンクチューンを連発。部落セクションを交えたアンサンブルで、スカやレゲエを取り入れた楽曲の数々で集まった1万人のオーディエンスの体を温めていった。ライブ中、猪狩は何度もHi-STANDARDに対する熱い思いを口にし、「中学生のときにハイスタと出会って、頭がおかしくなりました(笑)」とバンド活動を始めた経緯を吐露。そしてライブ終盤には、夢にまで見たHi-STANDARDとの共演に対して「マジでヤバい1日でした。なんて言っていいかわからへんけど……マジで最高の“ギフト”をありがとう!」とHi-STANDARDの新作タイトルに引っ掛けて挨拶をし、ステージを降りた。彼らはゲストアクトとして、次のHi-STANDARDへとつなぐ最高のパフォーマンスを見せてくれたと、あの会場にいた者すべてが実感したはずだ。
そして、いよいよこの日の主役、Hi-STANDARDのライブがスタート。本ツアーでのアリーナ公演は10月28日の愛知・日本ガイシホールに続く2本目だが、すでにツアー4本目ということもあってかバンドの状態はかなり好調な様子に映った。彼らは過去の代表曲と最新アルバム『The Gift』からの新曲を交えながら、エネルギッシュな演奏を披露。会場内はいくつかにブロック分けされているものの、そんなことお構いなしと言わんばかりに、観客はモッシュやクラウドサーフといったアクションでバンドの熱演に応えた。
この日のライブを観て改めて感じたことは……当たり前のことだが、本ツアーは18年ぶりにリリースされたオリジナルアルバム『The Gift』を携えたライブだということ。もちろん昨年末の『GOOD JOB! RYAN TOUR 2016』も『ANOTHER STARTING LINE』と『Vintage & New, Gift Shits』という2枚のシングルを提げたツアーだったが、そのときとの大きな違いはツアーの中心にあるのがニューアルバムからの楽曲群だということだ。ツアーのセットリストは日替わりで大きく変わり、ニューアルバムから演奏される楽曲も日々変化しているのだが、この日だけでもセットリストの半分近くが新曲であり、その当たり前の事実が嬉しくもあり、と同時に10年前、いや活動再開後の5年前ですら想像できなかったくらいの驚きでもあった。
そして、これらの新曲が今の彼らに非常にフィットしており、今の彼らを指してよく言われる“伝説のバンド”“パンクロック界のレジェンド”などの説明文が邪魔になるくらい“今のバンド”“現役感バリバリのパンクバンド”なのだと実感させられた。それは今の彼らならではのグルーヴ感や各々のプレイスタイルが反映された新曲だからこそ、余計に強く感じるのかもしれない。ライブを通じて新曲のバイブスがより強靭なものになっていることを感じられたのは、このツアー最大の収穫かもしれない。
また、新曲自体が従来のHi-STANDARDらしさと伴いつつも現代的なスタイルを確立したことも、今の彼らにとって大きな武器になっている。「All Generations」「The Gift」といったアップチューンのみならず、「Free」のようなミディアムナンバーが音源以上に強烈なパワーを放つことは、今ツアーの見どころのひとつと断言できる。そんな中で昨年リリースの「ANOTHER STARTING LINE」は、この日のライブでも冒頭から大合唱が沸き起こるほどのアンセム感を伴っており、Hi-STANDARDが“世代を超えた伝説のアクト”ではなく“世代を超えた現在進行形のパンクバンド”なのだということを確信する瞬間となった。
ライブ中、横山健(G, Vo)は「古い曲と新曲を交互にやると、俺もエモい気持ちになる」と漏らしていたが、それに対して難波が「それをみんなが受け止めて歌ってくれるのが、ハンパねえ!」と続け、恒岡章(Dr)も同意しながら感慨深げな表情を浮かべる。特にこの日は「This Is Love」や「Who'll Be The Next」のようなレア曲が披露されたこともあり、その思いは観客にとってもより強いものだったのではないだろうか。
さらに興味深かったのは、ライブの最終局面まで「Stay Gold」が演奏されなかったことではないだろうか。おそらくあの場にいた多くのオーディエンスが求めていた1曲はここぞというクライマックスに披露されたわけだが、正直曲が始まったその瞬間まで「Stay Gold」がまだ演奏されていなかった事実に驚かされた。これは、それぐらいこの日のライブが充実した内容だったという表れではないだろうか。「Stay Gold」はHi-STANDARDの代表曲であることは間違いないが、当然彼らの代表曲はこの1曲だけではない。「Stay Gold」と同じぐらい重要で、同じぐらいライブに欠かせない名曲は山ほどある。特にHi-STANDARDをリアルタイムで知らなかった世代にとって「Stay Gold」は絶対的な1曲なのかもしれないが、このツアーを通じて新曲、そして過去の代表曲の素晴らしさをたっぷり伝えることで、そういった楽曲の独り歩きに歯止めがかかるのではないか……個人的にはこのへんの動向にモヤモヤしたものを抱えていたので、早くそうなってほしいと願わずにはいられない。
彼らのツアーはこのあと12月14日のさいたまスーパーアリーナまで続く。きっと今後のライブでは終了済みの4公演で一度も披露されていない楽曲も飛び出すことだろう。そして、最新アルバム『The Gift』の楽曲群がライブを重ねるごとに成長を続けているだけに、ツアーファイナルではどこまで“化けて”いるのかも気になるところ。そして、いろんな世代がアルバム『The Gift』とこのツアーを通じて交わり合うことで、パンクロックを次の新しい世代へとつなぐことになる。だからこそ、このツアーは最後まで一瞬たりとも目が離せないものになるはずだ。
Text by 西廣智一
Photo (Hi-STANDARD) by Teppei Kishida / 東海林 渉 / 小坂 淳
Photo (Hey Smith) by HayachiN