大阪城ホール公演の2日目。毎公演、新旧織り交ぜた異なる楽曲でのセットリストであることが既に周知されている今ツアーだけに、開演前から「俺は○○が聴きたい」「あの曲、まだどこでもやってないよね?」などといった会話が今日も周囲で繰り広げられている。高揚を隠さない人々の会話と空気が幾重にも折り重なって、延々とどよめきに支配されている大阪城ホールである。
とても素敵だなと感じたのは、「お前をライヴハウスに連れて行って、ダイヴさせるのが夢だったんだよ」「えー、あんなのできないよ!」と語り合っている親子の姿。前日に続いて、親子連れでピットに参戦している観客も多いが、思い出話ではなく、若かりし頃の輝きの回顧でもなく、ハイスタの新しい曲達によって「今まさに叶う夢」のようなものがここにたくさん生まれているのだ。『The Gift』の新しい楽曲によって、巨大であった一方限られた世代の聖域のようでもあった「ハイスタという絆」が、世代どころじゃなく人々の夢も未来も大きな輪にして繋いでいる。今日も凄まじいライヴになるのは間違いないだろう。
まずステージに登場したのはMAN WITH A MISSION。昨年のAIR JAMで初めてハイスタと共演した同バンドだが、こうして新譜を引っ提げたツアーに呼ばれるのはことさら感慨深いことだろう。登壇するなり“Get Off of My Way”をプレイすると、小気味いいリズムで一気に会場全体を揺らす。ダンサブルなグルーヴを主役に据えたミクスチャーロックだが、何よりも観客を持って行くのは、グッと前のめりな歌とラップの勢いである。オオカミゆえに表情はなかなか掴めないが、雄大なコーラスが折り重なる“Emotions”のような楽曲では特に、その熱量と力感を隅々から感じとることができた。彼らの音楽のルーツと原点であるハイスタに対し、ノスタルジーとしてではなく現在進行形として向き合うステージ。昨日の10-FEETのアクトもそうであったように、バンドマンとして生きてきた道のりそのものをどれだけ凝縮して示すことができるのかを問われるような時間でもあるのだろう。とにかく、それぞれのプレイもパフォーマンスも、型をはみ出して躍動している。Jean-Ken Johnnyが「今日は、とにかくこの曲を演奏しに来ました」と語った“1997”では<Hi-Standard rocking on the stage to Stay Gold><I never lost myself more than those days>と歌われている通り、彼らがバンドやロックに我を忘れるほど興奮した理由そのものがこの日なのである。ラストの“Fly Again”ではTokyo Tanakaが客席に突入し、まさに全身全霊で歌い鳴らす。たとえば“Fly Again”が色褪せずアンセム化していることが象徴的だが、フェス台頭以降のリズムオリエンテッドなシーンとその変遷を的確に見極めた上でのソングライティングが彼らの武器のひとつになってきたことは確かだ。しかしそうした批評眼や技術面以上に、ロックバンドでしか生めない興奮やカタルシスを追求し続けるからこそ変化と進化を繰り返してきた5匹なのだということが、真っ向から伝わるライヴだった。
そして、Hi-STANDARDの登場である。さあ何で来る、と臨戦態勢に入った会場にまず放たれたのは、“FIGHTING FISTS, ANGRY SOUL”。早速<Go boys><Go now>の怒号と無数の拳がホール全体を埋め尽くし、いわゆる大人見をしていた観客も、あっという間にモッシュピットへ突撃していく。「喧嘩上等」この上ないオープニング、着火スピードがハンパじゃなく速い。続いてコールされた“All Generations”でも、まさに会場全体の人それぞれが好きなように歌う、歌う。その熱気に突き動かされるように、ハイスタ3人の表情も明るく弾けていく。そして何より素晴らしかったのは、アンサンブルそのものだ。脇目も振らず爆走していく3人のサウンドが昨日に比べてもさらにギュッと撚られ、ひとつの塊としてドンと体に飛んでくる。自分達自身の音と観客との交感を心から楽しんでいるような3人の明るい表情にしろ、ギリギリのスピード感を楽しみながら有機的に絡み合っていくような演奏にしろ、コンパクトな楽曲の中にも、濃密で激しいコミュニケーションがパンパンに詰まっているのが最高にいい。“SUMMER OF LOVE”で会場全体を文字通り揺らしたのに続けて“START TODAY”、“STANDING STILL”、“Going Crazy”を畳みかける、新旧織り交ぜて疾走感の強い楽曲で一気に持って行く前半。勢いや速さから生まれる高揚や暴動感以上に、ステージとフロアの垣根が一気に取っ払われたかのような「近さ」と、そこに生まれる熱がグングン昇っていく様が、何しろ感動的だった。アットホーム、なんて生温かい言葉で表現できる空間ではないが、1曲1曲が、誰にとっても「自分の歌」として開かれているし、それはもたらしたのは、言うまでもなく“All Generations”“We’re All Grown Up”と真っ向から歌ってすべての人々に対峙した『The Gift』自身である。
MCになれば、何故か『妖怪ウォッチ』を制作している会社の話になったり、難波が「今さらMCがヘタとか言われてもしょうがねえから」と話し始めたり……最早まとめやオチなど関係ねえと言わんばかりの自由過ぎるトークがこの日も繰り広げられたわけだが、一音鳴った瞬間からの没頭感と音の束感はより一層凄まじいものになっていく。その中でも特にこの日輝いていたのは難波の歌で。その歌の大きさと伸びやかさが特に素晴らしかったし、止まぬ大合唱の嵐を生んでいるのは、言うまでもなく難波の歌そのものだった。一打一打が腹に響くビート感にしてもスピード感にしても、強烈さを増していくそのアンサンブルの核にあるのは、今ここで全盛期を迎えているその歌への信頼なのだろう。実際、難波と横山による歌・コーラスの掛け合いが曲を引っ張る“Can I Be Kind To You”がプレイされると、ギターもリズムも歌に対して彩りが豊かなプレイであることに気づく。凄まじいスピードで進んで行くライヴの中にあって、特に『The Gift』の楽曲達は、歌自体にもリズムにも「歌心」が強く感じられるのである。これは3人個々の音楽的な円熟というよりも、きっと「誰もが歌えるもの」としてハイスタが今ここに在るという自覚がハッキリと表出したものなのだと思う。『The Gift』随一のメロディを響かせている“We’re All Grown Up”がハイスタ黄金律としての2ビートではなく大らかな8ビートになったのも、“Free”というハイスタ自身のような言葉を冠した歌が<Oh Oh Oh…>の大合唱を背骨に持っているのも、3人にとっての歌の在り方の変化と、そうした新たなハイスタ観が呼んだものなのだろうと感じる瞬間が多くあるライヴだったし、それが音楽と心の近さになっていったのだろう。歌が絆で絆が歌で、とでも言えるような、幸福な空間が次々に生まれていった。
そこでさらに感動的だったのが、中盤、難波が「独りじゃないぜ」という一言を添えて鳴らされた“Lonely”。遠く離れた愛する人への想いと寂しさがストレートに綴られた歌だが、凄まじいスケールの合唱の輪の中にこの歌が放たれると、切なさと寂しさを湛えた歌という意味合いを超えて、「いつまでもお前らから離れはしない」という強い意志のような意味を持って耳に届く。続けて演奏された“NOTHING”にしても、ハイスタと人々の強い繋がりの証のような意味合いを持って響き渡るようだった。『The Gift』の新しい歌の数々によって、過去の歌が新たな輝きと意味を持って広がっていく――まさにハイスタがハイスタ自身を更新していく様を目の当たりにする瞬間の連続だったと言えるだろう。ノスタルジーなどクソ喰らえと言わんばかりに、過去の楽曲もことごとく今の響きを持って瑞々しく響き渡り続ける。そこに多くの人が凄まじい感動を覚えるライヴだったと思うし、それもこれも、ひたすら今と未来の自由を体現しつけようというハイスタの美学と哲学が1mmもブレないからこそだ。その後のMCでは、難波と横山が「人生は常に新しい」「おじさんになるのもいいぜ」と観客に語り掛け、それに恒岡が大きく頷く一幕もあったが、何よりも楽曲自体がその言葉を体現しているのである。演奏される楽曲のどれもが、過去の響きと意味合いと型をことごとく超えていくような瞬間の応酬。これだけの超越感を響かせるライヴは観たことがない。そして、そんな天井知らずの感動を覚えるライヴの本編ラストが“STAY GOLD”。これだけのライヴを魅せた上でまだ行くか?という、限界突破を響かせるような締めである。ただ、最早説明要らずのアンセムであるという前提がある上で書くが、この日の“STAY GOLD”に覚えたのは「待ってました」という感覚ではなかった。それ以上に、ひたすらハイスタがハイスタを更新していくようだったライヴを文字通り象徴するような1曲として鳴り響いてきたのだ。“STAY GOLD”がラストまで演奏されていなかったことにイントロで初めて気づくほど、この日のライヴはハイスタがハイスタを超越していたし、それぞれの楽曲が楽曲自身を更新していたのである。
アンコールでは、神戸のライヴハウス「太陽と虎」の店長である松原氏を連れて登場した3人。松原氏がガンとの闘病生活を送っていることは、様々なバンドマンの発信とエールによって既に多くのロックリスナーが知っているだろう。横山が「いつもならステージの上の俺らがみんなにパワーを送るけどさ、今日は、俺らとみんなで松ちゃんにパワーを送ろうぜ」と呼びかけて演奏されたのは、“ANOTHER STARTING LINE”だった。無告知ゲリラリリースという形で新たなハイスタの号砲を鳴らした楽曲だが、最早、あの時たくさんの人が感じた喜びや感謝や希望の象徴として大きく大きく成長している1曲でもある。横山の言葉に呼応してありったけの声を乗せた大合唱を前に、こみ上げるものを堪え切れない難波が声を詰まらせ、歌えない瞬間もあった。
これは、たったひとりに贈る曲として“ANOTHER STARTING LINE”が鳴らされた場面だったからこそ、今こそハイスタの歌が「みんなの歌」になったことがよく理解できた。90年代、ストリートとライヴハウスで育まれた濃密な歌と絆が、『The Gift』というアルバムによって今を生き歳を重ねていく人々それぞれの人生に寄り添うものへと変貌していく様が、あまりに巨大なスケールで鳴り響いていた。“MOSH UNDER THE RAINBOW”を演奏し終えた後、3人並んでカーテンコールのように観客に一礼した珍しい一幕も、3人自身がこの一夜に並々ならぬ手ごたえを感じていたことの表れだろう。無敵の3人組が「帰ってきた」のではなく、今を突き進んでいる。言葉にすれば簡単だが、その刷新と進化のスピードがまさに無敵の勢いで上がり続けていることを示し続けるアクトだった。
………という締めでは締まらなかった。終演を告げる照明が点灯して観客も順次退場、3人のカーテンコールを見届け、場内のオーディエンスが約半分くらいになった頃。突如3人が楽器を担ぎ、まさかのダブルアンコールで放たれたのは“TURNING BACK”だった。イタズラっぽいサプライズであるとともに、また必ず戻ってきたい、また必ず会いたいという未来への意志が3人にとって実感になったからこその“TURNING BACK”だったのだろう。「これから」に向かってハイスタは行く。ハイスタはまだまだ繋ぐ。何度でも生まれ変われると伝えて、人を未来へと繋ぐ。自由で在りたいという願いの数々をそのまま体現して、希望を繋ぐ。今ツアーは残り4本となったが、さらにその先へと広がる景色に早くも胸が高鳴る。そんなライヴだった。
Text by 矢島大地(MUSICA)
Photo (Hi-STANDARD) by Teppei Kishida
Photo (MAN WITH A MISSION) by Daisuke Sakai(FYD Inc.)