12月5日、この日でハイスタの地方遠征は終了する。九州シリーズ2日目は熊本。3人が訪れることを熱望していた街だ。昨年のAIR JAM 2016でもハイスタはとてつもないパワーを九州に送り届けてくれたが、地震で大きな被害を被った熊本を訪れることができたのは3人にとって非常に大きな意味を持つ。
熊本の街は平日でも驚くほど活気に溢れている。メインストリートと言えるアーケードには多くの人が往来し、ただ歩いているだけでも元気が湧いてくるようだ。この日の会場B.9 V1は、賑やかなアーケード街の1本隣のオシャレなお店が並ぶ通り沿いにある。場内に入って一瞬ギョッとした。このライブハウスは作りが少々変則的で、フロアが6段になっているのだ。大暴れするには厳しい環境かもしれない。まぁ、こんな心配は全くの杞憂だったのだが。
開演時間から数分押しで、拍手喝采のなかステージに現れたのはDizzy Sunfistの3人。皆、明らかに気合いが入っている。そして、ハイスタと同じステージに立てることに興奮もしていた。1曲目「Someday」から前のめりでかっ飛ばしていく。楽曲のよさもさることながら、あと一歩でずっこけそうなほどの勢いが魅力だ。
最初のMCではあやぺた(Vo./G.)が自己紹介を噛みまくり。緊張というよりも、やはり興奮だろう。「Hi-STANDARDのライブを観るのが夢だったのに、ライブハウスで一緒にやってるってすごくない!?」とハイテンションでフロアに語りかけ、ハイスタからツアーに誘われたときは、持っていた携帯を落とすぐらいの衝撃だったという。しかし、彼女たちは決して浮かれているわけではない。「うちらが信じてやってきたメロディックパンクがどれだけ通用するか(試しに来た)!」と絶叫。
その言葉の通り、3人は感情むき出しで次々に曲を投入していく。演奏は荒削りなところがあったが、そんなものは関係ないとばかりに気持ちで押し切っていく。絶対それが正解だ。もあい(Dr./Cho.)は何度も何度も立ち上がり、そのまま前に出てきそうな勢いでフロアの奥まで力強い視線を送っている。そんな彼らの姿に突き動かされるように観客の熱狂は高まっていった。
ラストのファストチューン「FIST BUMP」まで、3人のテンションは全く途切れることはなかった。そして、彼らの思いは、彼らのパンクは確実に皆の心に届いていた。3人の熱演を称える止むことのない拍手がそれを証明していた。
さぁ、続いてはハイスタの出番だ。いつものSEが鳴り響き、まず恒岡が大きなジャンプをカマして登場すると、あとから難波と横山が姿を見せた。「さぁ、来たぜ熊本!」と難波が叫ぶとフロアの熱狂はさらに高まる。続いて、横山が「今日はいつもと変わった始め方するから」と宣言し、既に場内にこだましていた「オイ!オイ!」という観客のコールをもっと遅くするように指示。そして、ほどよくテンポが落ちたコールに合わせて爪弾かれたのは、なんと「Can’t Help Falling In Love」のイントロ。まさかの1曲目にどよめき混じりの大歓声が起こり、それと同時に段差なんてお構いなしにフロアは一気に混沌の渦に。
それにしてもこの選曲よ。公演ごとにセットリストを変えていくいことは事前に公言されていたけど、この「Can’t Help~」スタートという過去に一度もないパターンは、どんな流れでもいけるというハイスタ3人の自信の表れのように感じる。
ここまで本当にいい流れでツアーができていたのだろう。暴走する横山の下ネタトークを恒岡が笛で制するという流れもすっかり定番化している。まぁ、これはちょっとしたお遊びのようなものだが、ステージ上の3人はツアー序盤と比べて圧倒的にアイコンタクトを交わす機会が増えた。曲の頭で3人揃ってカウントをとることも多い。90年代にはあまり見られなかった光景だ。今のハイスタを支えているのは抜群の演奏力の高さだが、それ以上に大きいのは3人の心の結びつきだろう。ハイスタのライブで鳴っているのは楽器ではない。彼らは人間を鳴らしている。
そんなステージの様子にフロアが呼応しないわけがない。5曲目「All Generations」のときのこと。なんとステージから3列目にあたる位置に肩車をされたちびっ子が現れたのだ。「大人も子どもも関係ない、どんな世代も来い」というこの曲に込められたメッセージをしっかり受け取ったんだろう。彼はタオルを振り回し、拳を突き上げていた。このほんの数秒の間に起こった出来事は、2017年にハイスタが音源を出し、ツアーをする意義をこれ以上ない形で示していた。ボーダーを飛び越えたんだ。
序盤戦は、「My Heart Feels So Free」、「Shy Boy」、「Wait For The Sun」、「Sunny Day」など過去曲を多く配置したセット。観客の盛り上がりもすさまじい。ライブ前にフロアの段差のことを気にしていたのが馬鹿らしくなるほどの激しさで、モッシュとクラウドサーフがあちこちで起きている。これにはメンバーも驚いたようで、横山が「私はこの場所で何度もライブしたことあります。悔しいけど、今日が一番です」とおどけた口調で認めたかと思えば、難波は「みんなの声がすごすぎて(演奏の)音が聞こえなかった!」と驚嘆。
そして、「熊本がいい感じになりますように!」という難波の願いとともに始まった「Starry Night」以降、場内の空気が少しずつ変わっていった。この日が誕生日だとステージに叫んだ客にハッピーバースデイを歌ったあと、横山がこの日は彼の愛犬ラッキーの命日でもあることを告白。そこで、「命日は新しい誕生日だからね」(難波)ともう一度ハッピーバースデイを全員で歌った。そんな流れで、「熊本に元気を、俺たちのエネルギーを届けに来たんだよ! 今日ここに来れなかった人たちのためにもみんなで歌ってよ!」とプレイした「Dear My Friend」はかつてないほどエモーショナルのものになった。横山の顔は汗と涙でぐしゃぐしゃになっていた。
続く「ANOTHER STARTING LINE」では、12月1日に亡くなって福岡公演に行くことができなくなってしまった友人のためにこの曲を歌って欲しい、というファンからのメールを受け取ったというエピソードを横山が披露。メールに気付くのが遅かったために福岡でプレイすることはできなかったが、ここ熊本で演奏することができた。
「Maximum Overdrive」を感情むき出しのパフォーマンスで終えた3人はいったんステージを降り、大歓声に呼び込まれる形でアンコールに移った。1曲目は「Big Ol’ Clock」。難波は言った。「福島の人たちのために歌った曲だけど、ここでも歌いたかったんだよ」と。この曲の演奏中、これまで地獄のようにぐちゃぐちゃだったフロアには誰一人として暴れる者はいなかった。体を軽く揺らしながら、それぞれの大切な人を思い浮かべながら、じっと曲に聴き入っていたのだった。
ここから「Free」~「Stay Gold」~「War Is Over」と続く流れは実にエモーショナルだった。そう、大盛り上がり必死の「Stay Gold」ですら、ズンと胸に響くものがあったのだ。大声を張り上げていたフロアもきっと同じ気持ちだったはず。メンバーも何か思うところがあったのだろう。本来ならばここで終わるはずだったのだが、急きょステージ上で打ち合わせをはじめ、もう1曲追加することになった。鳴らされたのは「Mosh Under The Rainbow」。小さなライブハウスに何重もの輪が生まれた。
何度も言うように、ハイスタは進化している。楽曲、演奏、3人の絆、そして、ファンとの距離感も変化している。当時よく言われていたことだが、90年代は近所の兄ちゃん的な身近な存在感が魅力だった。あれから長い時を経て、様々な出来事や経験が両者の関係性を別の次元へと押し上げた。今のハイスタには同じ屋根の下に住む家族のような温かさがある。ファンとの距離がグッと近くなっているように感じるのは3人の人としての成長によるものなのかもしれない。それが今ツアーのライブをさらに特別なものにしているのではないか。「THE GIFT TOUR 2017」は、その場に集まった全員にとっての我が家(ホーム)になっているのだ。
Text by 阿刀”DA”大志
Photo (Hi-STANDARD) by Teppei Kishida
Photo (Dizzy Sunfist) by 半田安政(Showcase)