最寄り駅から足早に会場へ向かうと、落ち着きなく周辺を歩き回るオーディエンスが多数。この日はHi-STANDARDが18年ぶりに発表したフルアルバム『The Gift』のツアー3本目。加えて、このツアーで初めてまさしくライヴハウスというシチュエーションということもあり、尋常ではない期待感があった。
まず最初にゲストとして登場したのはCOUNTRY YARD。そのメロディーセンスと至誠な歌声で腕をふるいながら、9月にはセルフタイトルとなる3rdフルフルアルバム『COUNTRY YARD』をリリースしたばかり。バンドの充実度は推して知るべしなのだが、皆が待ち焦がれた特別なツアーだけに、ゲストバンドに対してどういった受け入れられ方をされるのかと邪推する想像があったのも正直なところ。だが、彼らがステージに姿を現した瞬間から心躍るような空気に包まれ、初っ端からいいテンション感に包まれる。
高校時代に手にしたというHi-STANDARDのTシャツを身にまとったKeisaku “Sit” Matsu-ura(Vo./Ba.)が歓喜の咆哮をかまし、「Quark」からライヴはスタート。一音一音にこめられた気迫が凄まじい。Matsu-uraがオーディエンスに向けて「オレたちも同じ気持ちです」と語っていたが、その証拠にメンバー4人が4人とも喜びを噛み締める表情に溢れ、「Alternative Hearts」ではリリックに""Hi-STANDARDに人生を狂わせてもらったんだ"と加えるほど高ぶった気持ちをぶつけていく。AIR JAM2011で観たHi-STANDARDを星になぞらえて披露した「Starry Night」はとても感動的な響き方をしていた。
登場前からコールが起こり、ステージに姿を現すや否や、YOSHIYA(Vo.)が「来たぜー!」と叫び、怒涛のパンクロックを叩きつけたのがRADIOTS。挨拶ばかりにと「RADIO SCRATCH」と「JUNK HEROES STORY」でフロアをかき回し、オーディエンスを誘っていく。「ハイスタが『The Gift』でまたみんなに夢を見せてるだろう? オレたちもまだまだ観てるぜ。お前たちも誰ひとり置いていかないから、まだまだ夢見ろよ!」とYOSHIYAが叫び、名曲「DREAM OF WORLD」をプレイしたが、そのスタンスこそ、彼らの真骨頂。オーディエンスが大声で歌えば「カッコイイね!」と優しく微笑み返す。一方的に放つのではなく、共に熱を高め、駆け上がろうとするのだ。
終盤は遊びに来ていたKAZUKI(SHADOWS)がゲストとして参加した「NO NAMED SKY」でより活力を与え、「WAKE UP」に「UPRISING」というエグるように攻め立てながら心が温かくなる盤石の内容。見事に存在感を示していった。
そして、待ちに待ったHi-STANDARD。SEが鳴った瞬間からコールとハンドクラップが鳴り止まず、メンバーが登場しただけでクライマックスかと思うような熱気に包まれる。そんなムードの中、「Dear My Friend」がいきなりドロップされるのだからたまらない。初っ端から手が付けられないフロア。ステージに目をやれば、難波章浩(Vo./Ba.)と横山健(G./Vo.)がそれぞれ恒岡章(Dr.)へと歩み寄り、確かめるようでもあれば、この瞬間を味わっているような場面もあり、過去に寄り掛かるのではなく、まさに今バンドとして一体となって突き進んでいく意志も感じられる。
そこから『The Gift』の冒頭を飾った「All Generations」でノリを加速させ、「Summer Of Love」を放つ。そこら中からダイバーが湧き上がり、当然のようにオーディエンスは大合唱。これぞライヴハウス、これぞパンクロックな空気に満たされ、そこに難波と横山の歌声が溶け込む。多くの人が夢見た光景が眼前に広がっていくのだ。
また、血気盛んに突っ込んでいくだけではなく、緩急自在なところもHi-STANDARDの魅力。集まってくれたオーディエンス、ゲストとして華を添えてくれたCOUNTRY YARDとRADIOTS、ライヴを目撃するべく駆けつけたHOTSQUALL、SHADOWSやHEY-SMITHに感謝を述べながら、難波と横山が互いのプレイを「健さんのギター半端ねえよな」とおどけながら話し、笑いを誘う。そのやり取りを見つめる恒岡の視線も優しく、この状況を皆々が楽しんでる様子がとても嬉しい。
「みんなも半端ねえモノ持ってるんでしょ? 授かったモノを見つけて」と難波が口にして「The Gift」。メンバー3人が互いを感じながら現在進行系のバンドとしてプレイする姿が美しい。フロアから盛大なコールが生まれ、難波と横山がイントロで見事なジャンプを決めた「New Life」から「Sunny Day」での盛り上がりも凄かった。この日詰めかけたオーディエンスは決してリアルタイム世代ばかりではない。だが、自然と口ずさみ、大声で歌う。曲にパワーがあれば、時代を越えて繋がっていくことを改めて実感させられる瞬間だった。
会場の熱気が凄まじく、ここで横山が「ちょっと換気しよう」と告げ、ひと休み。会場の壁は水滴に覆われ、11月の福島は寒さも到来しているのだが、開けられた扉から入ってくる外気が心地よい。
オーディエンスが諸手を挙げて喜び、終盤には難波も両手を広げて歌い上げた「We’re All Growing Up」で愛に満たされ、その流れのまま「My First Kiss」へ。汗、熱さ、笑顔、歓声のすべてが入り混じり、最高の空間だ。ライヴも中盤に入り、多少の疲れがオーディエンスに見受けられたのか、「へばってんじゃねえ! いけるか、最大級に?」と難波のアジテートから投下されたのは「Maximum Overdrive」。ギターを持ち替えた横山の音の強烈。とてつもないダッシュでエネルギーを燃焼させていくのだ。
横山が「アリーナもいいけど、ライヴハウスは最高だな」と語っていたように、環境としてすべて整っているわけでないが、やはりライヴハウスは格別な良さがある。ライヴハウスとアリーナの違いを問われて、恒岡は「ステージでタバコが吸えるかどうか」と答えて会場は笑いに包まれたが、それを受けてか横山は旨そうに一服し、自然体が生み出すメリハリでここでもニヤッとしてしまう。
そして、次にプレイされたのは「Big OI’ Clock」。横山が「この曲は福島で最初にやりたかった」と告げたように、この日が初披露というのには理由があった。東日本大震災が起こった2時46分を指したまま止まった時計の話をキッカケに、福島を想って難波が綴ったリリック。切に願いをこめるよう、真摯に歌い上げる難波。優しさもにじみ出たニュアンスをオーディエンスもしっかり受け止めたのだろう。ひとつひとつの言葉を噛み締め、口ずさむ人もいれば、拳をギュッと握りしめながら涙を浮かべる人も見受けられた。
爽快に疾走していく「Time To Crow」から続いたのは、恒岡のドラムと難波のベースが鳴ったときからドキドキが止まらず、フロアのテンションもアガりまくった「Teenagers Are All Assholes」。フロアの密集度の凄さは言うまでもないだろうが、そこで起こるモッシュも濃さも凄い。
また、この後に横山が語った話も実に興味深かった。「(このギターは)Nothing's Carved In Stoneのウブ(生形真一)のシグネチャーモデル。ウブといえば、ELLEGARDENでしょ? ELLEGARDENのヤツのギターがハイスタのステージで弾かれるっていうね。これ、ロマンねえかな?」とギターを掲げる。Hi-STANDARDが活動休止した2000年、ELLEGARDENはまだデビュー前。そこから年月を経て、今こうやって交わっている物語はグッときた人も多かったのではないだろうか。
ここからはまさにラストスパート。「Pacific Sun」を弾き倒し、難波の歌い出しに合わせてオーディエンスも大合唱した「Fighting Fists,Angry Soul」。興奮を押さえきれずステージからダイブするYOSHIYA、マイクを握りしめながら絶叫する難波。沸き立つような楽しさを感じながら「Free」で気持ちを奮い立たせ、本編の締めくくりは難波が「福島がもっともっといい感じになっちゃうように星に願っちゃうおうぜ!」と叫んでからの「Starry Night」。輝きと多幸感に包まれっぱなしだった。
もちろん、まだまだ終わることができないオーディエンス。そして、その気持ちはメンバーも同じだったのだろう。まずは待ち焦がれた「Stay Gold」をドロップし、妖艶なイントロからとんでもない突破力を誇る「Pink Panther Theme」を挟み、Hi-STANDARDとして新たなスタートを切った記念すべき曲「Another Starting Line」。クライマックスでは、オーディエンスが高く掲げたハンズクラップがフロアを埋め、泣きそうになるほど美しい情景になっていき、ラストはHi-STANDARDとして福島に来れた喜びを改めて語り、最大限の愛情をこめた「Can't Help Falling In Love」。すべてのその先へつながる、まるで凱歌のように響き渡っていった。
そして、どこを切り取っても輝かしい場面ばかりのライヴが終わりを告げたかと半分ほどのオーディエンスが会場を後にしたところで、まさかのダブルアンコール。そこで放たれたのは「Growing Up」だ。すぐには岐路に着こうと思えず、フロアで喜びを噛み締めていたオーディエンスへの嬉しすぎるサプライズ。最初から最後まで歓喜に満たされ、ライヴハウスの醍醐味を喰らい尽くしたライヴだった。
Text by ヤコウリュウジ
Photo (Hi-STANDARD) by Teppei Kishida
Photo (RADIOTS, COUNTRY YARD) by 半田安政(Showcase)