11月18日午後3時、札幌は快晴。スマホの天気アプリを確認すると、“2度”という見慣れない数字が浮かんでいた。本日の会場となる真駒内セキスイハイムアイスアリーナには、開場前から多くのファンが集まり、フォトブース(わりと凝ってる)で記念撮影をしたり、物販でグッズを購入したり、思い思いのときを過ごしている。
しかし、開場時間に近づくにつれ、天候は悪化。強烈な吹雪のなかでの入場開始となった。こんな状態でもTシャツ姿の人間が何人もいるんだから相当な気合いだ。なんせ、今日はハイスタとブラフの2マン。そうしたくなる気持ちもわからないでもない。いや、やっぱり分からない。それぐらい寒い。しかも、場内に入れば暖かいかというとそんなこともなく、ここも寒いのである。ステージに上がる人間としてはなかなか厳しい環境だ。
定刻から20分押しで現れたのはBRAHMAN。1曲目の「The Only Way」が鳴らされるなか、超巨大なバックドロップがステージ背後にせり上がっていく。自身がメインのライブでもないのにこの演出。気合いのほどが伺える。TOSHI-LOWは「20年前に初めてハイスタと対バンしたときのリベンジを」と最初に宣言したが、4人は本当に全力であの3人組に挑みかかった。新旧織り交ぜたスキの無いセットリスト、「鼎の問」でスクリーンに映し出された映像、「ラストダンス」でILL-BOSSTINO、「守破離」でKO(slang)、そしてラストの「今夜」で細美武士(the HIATUS / MONOEYES)が登場したラストの3連発――これまでにBRAHMANが対バンとして出演したライブでここまでやったことはあっただろうか。
開演前、事前にセットリストを知った自分がTOSHI-LOWに「ぶち込んできましたね」と感想を伝えたところ、彼はこう答えた。
「だって、これが今の俺らじゃん。(ゲスト陣も)来てもらえるときはいつだって来てくれるし。ハイスタが現在進行系なんだから、俺らだって現在進行系でやらないと」
たしかに昔を振り返るような空気は皆無だった。いつも以上に鬼気迫る勢いだったが、そうじゃなきゃあの3人には簡単にヤラれる。言い換えると、全力中の全力でぶつかってもハイスタならしっかり応えてくれるという信頼の証だったのかもしれない。TOSHI-LOWは“リベンジ”だと言っていたし、恒例のロングMCでは彼らしい毒も吐いてはいた。しかし、その裏にあるのは圧倒的なハイスタ愛。まぁ、ちょっとネジ曲がってはいるんだけども。とにかく、最近観たなかではぶっちぎりのパフォーマンスだった。
再び開演前の話に戻る。バックヤードのトイレでライブスタッフと並んで用を足しながら、「いや~、ソワソワするねぇ」なんて話をしていると、どこかから「どうしてソワソワするんだよ」という聴き慣れた声が聞こえてきた。個室便所に入っていた横山だった。そこから扉一枚隔てた会話が始まった。今回のツアーにかける意気込みや、どういう気持ちでHi-STANDARDのステージに立っているのかを彼は一気に語ってくれた。話を聞いていて感じたのは、彼のなかでハイスタとしてのライブ感覚が“2017年レベル”に更新されているということ。非常に有意義な内容だった。そんな真面目な話を便所で、した。横山だけでなく、難波、恒岡ともに様々な部分においてアップデートが完了しているはず。今回のツアーに参加した観客が感じているであろうハイスタの“今”感というのは、こういうところにも由来しているのかもしれない。
毎回セットリストが違うという今回のツアー、札幌の1曲目に選ばれたのは「Stay Gold」。いきなりのパンクの金字塔投入に、観客は全力のモッシュで応える。しかし、なんなんだろう、この演奏の分厚さは。これまでに何度も感じたことではあるとは言え、やはり思わずにはいられない。「3ピースでこんな音が出せるんだ!」と。
その感覚は新曲で顕著だった。音源ではわりとライトで弾んだビートが印象的な「Hello My Junior」はガラリと表情を変え、重厚感のあるパンクチューンになっているし、サーフロックのインストチューン「Pacific Sun」はかなり極悪でギラついた仕上がりになっている。その一方で、「Big Ol’ Clock」や「Free」はよりエモーショナルかつ、ドラマチックに鳴らされていて、ほんの数公演で新曲が大きく育っていることを感じた。
一番目を惹いたのは恒岡のドラムで、アンサンブルの重厚さは彼のプレイによるところも大きい。細見の体から繰り出されるスナップの効いたストロークには最初の一打目からぶっ飛ばされた。テクニカルなプレイに元々定評があるドラマーだが、今日は彼の力強さにばかり耳がいった。そこに難波のベースが絡むのだから、そりゃあ化け物みたいなリズム隊になるわけだ。特に「Teenagers Are Assholes」のイントロ。“デンデンデンデンデンデケデケデケ”なお馴染みのベースラインとシンプルなドラムフレーズだけでとんでもないグルーヴが生まれていた。90年代から定番の流れだが、このパートでここまで興奮したのは初めてだ。
ステージの進め方も初日の渋谷と明らかに違う。あの日はお互いにじっくり感触を確かめながら進めているようなところがあったが(それもよかったんだけど)、そんな段階はとうに終えている。くだらないMCをダラダラと続けたかと思えば、次の瞬間にバシッと曲に入っていく不思議な間合い。あれは鳥肌モノだ。90年代は、3人のキャラクターがスリリングにぶつかり合うことでマジックが生まれていて、今はお互いをリスペクトし、がっちりスクラムを組むことでミラクルが起きている。どっちも格好良いけど、後者のほうが素敵だ。
難波「ツネちゃんは最近ヨガにハマってるそうです」
横山「本当にヨガやってんの??」
恒岡「……太極拳をやってます」
なんていう、一見どうってことないんだけど、ステジ上では珍しい3人のやりとりがうれしい。そう、こういった光景は90年代のライブでは一度も見たことがなかったのだ。
上記のような関係性から生まれるフィーリングは、3人のパフォーマンスにあからさまにいい影響を与えていた。たとえ誰かがミスをしても、他の2人のちょっとしたフォローがそれをことごとくカバーし、より大きな波へとつなげていくのだった。ああ、これが10年代の、進化したHi-STANDARDなんだ。
どの曲も余すところなく盛り上がった90分。アンコールラストの「MOSH UNDER THE RAINBOW」で最高潮を迎えた客席の雰囲気が愛おしかった。俺たちは全員大人になった。だけど、これからもハイスタとの青春は続いていくんだ。そんな暖かな気持ちで会場外へ出ると、さっきよりも勢いを増した吹雪が猛威を奮っていた。
Text by 阿刀 DA 大志
Photo (Hi-STANDARD) by Teppei Kishida
Photo (BRAHMAN) by Tsukasa Miyoshi(Showcase)