10月26日の渋谷TSUTAYA O-EASTを皮切りにスタートしたこの"THE GIFT TOUR 2017"もちょうど折り返し地点。各地での熱戦を耳にし、興奮を押さえきれないのだろう。かなり冷え込みが強い日ではあったが、会場前からお気に入りのTシャツやパーカーに身を包んだオーディエンスが開場前からセキスイハイムスーパーアリーナ周辺を埋め尽くす。
ゲストバンドとして時代の寵児とも言える存在になったWANIMAがまず登場。その勢いは恐ろしさすら感じるほどで、お馴染みとなったSE「JUICE UP!!のテーマ」からオーディエンスが大合唱。メンバーが颯爽とステージに駆け出し、KENTA(Vo./Ba.)は「遂にこの日がやってきたー!」と喜びを全身で表し、「日本でいちばん仙台とハイスタが大好き! WANIMA,開催しまーす!!」といつものように大声で宣言する。 とはいえ、格別の想いがあったのだろう。この日の彼らはいつの以上にギラついた攻め立てるスタイル。彼ららしいユーモアや戯ける様子はありつつも、前のめりに踏み込み続け、Hi-STANDARDへの感謝をリリックの合間に挟み続けた「ともに」、自らの力を試すように踏み込んだ「Hey Lady」でフロアをかき回し、心の底から「ヒューマン」を響かせていく。
そして、KENTAが「ハイスタと仙台にリスペクトをこめて。やっぱ、この曲をやろう!」と叫んでから放った「Japanese Pride」はひとつのハイライト。リリックに「今は立派な君のパパも1度は聴いてたんだHi-STANDARD」という一節が登場するこの曲。会場全体の一体感がグッと高まった瞬間でもあった。 その後もスピードは緩めることなく「いいから」や「THANX」を投下し、最後は「(横山)健さんとPIZZA OF DEATHをずっと裏切らないって約束したから、これからもPIZZA OF DEATHと(ともに)戦っていきます」とKENTAが高らかに強靭な決意を告げる場面もあり、最前線で戦っているバンドの姿を見せつけてくれた。
ヒートアップし、興奮に満たされた会場。その空気を更に高ぶらせるバンド、Hi-STANDARDがいよいよ登場だ。照明が落ちた瞬間から、悲鳴にも似た歓声が湧いたところで難波章浩(Vo./Ba.)が「今日はブロックがデカいから、おもいっきり暴れようぜ! 準備はいいかい?」と焚き付け、恒岡章(Dr.)の叩き出すリズムに合わせて体を揺らしたところへいきなり「Maximum Overdrive」を投下。当然の如く、否が応にもアガるテンションと温度。横山健(G./Vo.)もステージのいちばん前までせり出しギターを引き倒す。アリーナという大きな会場ではあるが、そのエネルギーがビシビシと飛んでくる。このツアーでの仕上がりっぷりが凄い。現状に満足することなく、貪欲なスタンスがあるからだろう。いきなり1曲目から度肝を抜かれてしまった。
そこから新作『The Gift』に収録された「Time To Crow」を放ち、横山がド頭からオーディエンスを煽り、最後には恒岡がスティックを高く放り投げるほどテンションが高まった「My Heart Feel So Free」へと繋がったのだが、その爆発力は上昇しっぱなし。再始動したバンドというのは、どうしてもこれまでの名曲に引っ張られる傾向があるが、今のHi-STANDARDにはそれがない。このツアーでは新旧織り交ぜたセットリストが刺激的で楽しいといった発言もメンバーからされていたが、それをオーディエンスも同じように感じているのだろう。繰り出される曲に対して、妙に身構えることなく、ただただのめり込んでいくのだ。
「New Life」で素晴らしき高揚感を生み出し、「今日はいい感じにいろんな世代が集まっちゃってるんでしょ?」と難波がオーディエンスへ投げかけて「All Generations」へ。脱兎のごとくオーディエンスは駆け出し、もうフロアはグチャグチャになっているのだが、そこへ横山が「もっと来いよ!」と言わんばかりにコーラスをしながら手招き。もちろん、ライヴハウスよりもステージとフロアの物理的な距離は離れているのだが、そうは感じさせない空気感。「仙台、もっと声を聞かせてくれよ! デカいところでやってるからって、J-POPじゃねえんだぞ!」と横山が煽り、放たれた絶妙なビート感でメロディーが沁みまくる「Punk Rock Is The Answer」を響かせる。
難波と横山がドラムのすぐ側に立ち、「恒ちゃん! 恒ちゃん!」と囃し立て、恒岡のドラムソロからなだれ込んだ「Pink Panther Theme」。妖艶なサウンドに皆々が体を揺らし、スイッチが入ったところからフロアはモッシュとダイブの嵐を巻き起こしてから、難波が横山の口癖をマネて「またいつか、ハイスタで行きたいズラね」と口にしてから「California Dreamin’」。諸手を上げて喜ぶオーディエンスの中で、とても印象的なシーンがあった。すぐ横の席で小学校低学年ぐらいの女の子がライヴを観ながらずっとタオルを振り回していたのだが、「California Dreamin’」が始まった瞬間、両手で頬をおさえ何とも言えぬうっとりとした表情でステージを見つめ出したのだ。アリーナという環境もあり、子供連れのオーディエンスも多かったのだが、その様を目撃して、Hi-STANDARDは時代や世代を超えて曲を繋いでいけるバンドなんだなと改めて実感。心も温まれば、パンクロックを好きで良かったと思える瞬間でもあった。
ここで集まったオーディエンスへ謝辞を述べ、「このアリーナだってライヴハウスにしたいから。おもいっきり、ライヴハウスだと思ってやってるからさ」と難波が語り、恒岡の叩くリズムに合わせ会場全体がハンドクラップに包まれてからメンバーのカウントダウンで始まった「Starry Night」。ダイバーも増えに増え、フロアは完全に狂乱の様相。たしかに会場は大きい。だが、ひとつひとつの場面を切り取れば、そこは完全にライヴハウス。このだだっ広い空間をいつも以上の熱量で埋め尽くしているのだ。そのオーディエンスの心意気が伝わったのだろう。曲終わりに横山がフロアを見つめながら拳で大きく胸を叩く。こうやって互いの想いをぶつけ合い、ライヴを作り上げていく光景は何度観てもたまらない。
また、3人が織りなすバランス感が秀逸だったのが「Stop The Time」。巧みなビート感で味わい深いメロディーの良さがより冴え渡る。曲の中盤、恒岡がフロントに立つ2人を見て笑みを浮かべる場面もあったが、ステージ上にもいい感触があったのだろう。この後のMCでは横山が「何だか理由はわからないけど最高だろ?」と話せば、難波が「最高だね。みんなもそうでしょ? ハイスタ、やべえな。自分で言うのも何だけど」と笑いを誘いながら感想を語り、興奮気味に「生きてる理由なんて、パンクロックが好きってことだけで十分なんじゃないの?」とシンプルに言葉を突きつける。会場中から喝采を浴びたところで「今、難ちゃんが言ったこと、オレが後でTwitterで書くから公式RTズラ!」と横山が戯けるところまで含めて、彼ららしい流れだ。肩肘張らず、難しく考えることもなく、ただその楽しさに没頭している会場のムードを象徴したようでもあった。
そこから踏み込みまくるインストナンバー「Pacific Sun」、「The Sound Of Secret Minds」と続けてドロップした後、「Free」を始める際に横山が発した言葉にハッとした人も多かったはず。横山に合わせてオーディエンスも大声で歌い上げたのだが、そこでひと言。「全然ダメ! 古い曲の余韻に浸ってるズラ? 今を生きてないのズラ?」と挑発したのだ。もちろん、過去の曲は聴き続けてきた年月も長く、思い入れも深い。だが、そこに寄り掛かるだけではなく、現在進行形で駆け抜けるHi-STANDARDの今、まさしく眼前で広がっている光景に対してどう感じているのか。それを躊躇なく突きつけてきたのだ。 この日集まったのは、そう言われて黙っているオーディエンスではない。その気概に応えるべく、とんでもない大合唱を巻き起こした「Free」は、すべての人にとって忘れがたい美しきシーンとして焼き付いたに違いない。その勢いのまま、「東北に光を! 闇にいるなら光を探せ!」と難波が絶叫し、まさしく沸き立つような楽しさで目頭が熱くなる「Stay Gold」をプレイ。フロアもスタンドも高く手を突き上げ、飛び跳ねる人ばかり。喜びが溢れ出るとはこういうことかと思い知らされる。
そして、このセキスイハイムスーパーアリーナは、東北大震災の際に遺体安置所となった場所であり、AIR JAM2012の候補地でもあったことを含め、改めてここでライヴができる嬉しさを難波が語りだす。「(Hi-STANDARDの)アルバムのツアーで来れたのは言葉にならない。みんな、集まってくれてありがとう! みんなの元気で東北を元気にしようぜ!」と胸の内を言葉にして放ったのは「Dear My Friend」。どこまでも純度の高いメロディーとリリックが紡がれていき、オーディエンスもすべてを噛み締めながら大声で叫び、体を動かす。物凄くロマンチックな情景だった。 そのムードをさらに上昇させるタイトル曲「The Gift」と繋ぎ、締めくくりは「Fighting Fists, Angry Soul」。ステージから放たれるサウンドと空気感に少しでも近くで触れようと、前へ前へと押し寄せるオーディエンス。そこに激しいモッシュとダイブも加わり、制御不能な大騒ぎの中、本編は幕を閉じた。
メンバーがステージから捌けた後、自然と「Free」の大合唱が起こり、スタンドからはスマートフォンや携帯電話による光が浮かんでいく。この幸せな時間をもっと味わわせて欲しい。その一心でHi-STANDARDを求め続けていた。その期待に応えるべく、アンコールも始まった瞬間から完全にトップギア。怒涛の勢いで「Turning Back」と「Teenagers Are All Assholes」を叩き込み、オーディエンスから熱狂的なリクエストもあった「Lovin' You」を横山が歌い上げ、再び駆け出す「I Know You Love Me」と繋ぎ、会場に詰め込まれた愛に浸れる「Brand New Sunset」へ。 曲が終わりに近づき、難波、恒岡がステージから去り、横山が名残惜しそうに音を鳴らし続け、大きく一礼。何ともドラマティックなフィナーレだなとしみじみしていると、難波が再び姿を現し、「健くん、もう1曲やっちゃっていい?」と驚きの展開へ。横山は「決まったと思ったのに!」と笑っていたが、最後の最後に「Mosh Under The Rainbow」は嬉しすぎる贈り物だ。ステージ中央で難波と横山が向かい合いながら爪弾き、アリーナを見渡せば各ブロック毎に巨大なサークルが出現。魔法にでもかかったように、とびきりの笑顔で肩を組みながら踊る。魂が震えるような、充足感いっぱいのライヴだった。
Text by ヤコウリュウジ
Photo (Hi-STANDARD) by Teppei Kishida
Photo (WANIMA) by Jon…