突如飛び入りでのライヴを行った今年の「COMIN’ KOBE」を除けば、「MAKING THE ROAD Tour」以来18年ぶりとなる関西公演だ。それがライヴハウスではなく大阪城ホールでの2daysになった点に、“All Generations”と歌う今のHi-STANDARDが表れている。徹底してライヴハウスで作り上げた濃密な絆を仲間とともに圧縮爆弾のように大爆発させていった90年代とは異なり、とにかく今のハイスタを多くの人に観て欲しいのだという気持ち。もはや世代やシーン云々に留まるものではなく、Hi-STANDARDとはみんなのものなのだと真っ向から受け止めた3人が今はいるのだろう。数百人キャパのライヴハウスと同時にアリーナ公演も実施している今回のツアーは、18年前に熱狂の遊び場を共有した人達はもちろん、その子供達や、フェスの台頭以降にロックと出会った世代のキッズにまで開かれている。開演前のアリーナでは、MAKING THE ROAD TourのTシャツを着た男性と、真っ新な今ツアーのTシャツを纏った少年(おそらくその男性の息子だ)が、「どの曲聴けるんだろうね!」と紅潮した顔で話していた。マスな場所に一切出ることなく、徹底してライヴハウスの中で自分達だけの自由を体現し続けたバンドが、過去に作り上げた絆に留まらない広い世代にリーチしている。そんなバンドは、後にも先にもやはりハイスタだけなのだ。開演前にもかかわらず、その唯一無二の在り方を改めて実感する場面だった。
この日のゲストバンドは10-FEET。後述するハイスタのライヴでは、難波が「10-FEETが西の横綱なら、俺達は東の横綱のつもりで来たんだ」と語っていたが、今年20周年を迎えた10-FEETはまさに、Hi-STANDARDがAIR JAMで示した「仲間」や「絆」、自分達で自分達の自由を守るのだという哲学を「京都大作戦」という形で受け継ぎ、それを自身の世代感で体現してきたバンドである。キッズにとってもハイスタ以降のバンド達にとっても京都大作戦が押しも押されぬ最高の音楽の遊び場として確立されていることを含め、10-FEETとハイスタが2マンライヴを行うというのは、ロックが受け継がれ転がっていくロマンそのものを表している。
実際、そういうロマンのど真ん中に立っているという感慨と、それ以上の並々ならぬ気合いが10-FEETのステージに満ちていた。キラーチューン“RIVER”で口火を切り、立て続けに“VIBES BY VIBES”を叩き込んだ冒頭からも窺える通り、ただハイスタへのリスペクトと感謝を表すだけではなく、ここまできたらハイスタを食ってやろうという気概すら感じる真っ向勝負だ。ハイスタが不在だった時代に、何度も何度も若者の不安と鬱屈と弱さを掬い上げて輝かせてきた音楽と、その音楽に対する誇りが、つんのめるようなスピードと、心から汗が飛び散っているような歌唱から伝わってくる。「大人見するのもいい、飛ぶのもいい!」とは言いつつ、結局は「かかってこい!」と叫び煽りまくるTAKUMAの姿と目にはゾクッとするような没頭感があって、その中でも特に素晴らしかったのが“back to the sunset”。最近の短いセットではなかなか演奏される機会が少ない曲だが、ハイスタの“BRAND NEW SUNSET”を彷彿とさせるイントロから2ビートに雪崩れ込み叙情的なメロディと、自分の弱さと夕陽を重ねたノスタルジックな歌を爆発させるこの曲をここで演奏したのは、「ハイスタがいなければ10-FEETはなかった」と語る自分達自身と、原点であるハイスタへの何よりの花束だったのだろう。原点も今の誇りもひっくるめて、言葉ではなく音で叩きつける、ひたすら闘争心溢れるアクトだ。そして最後の1曲とコールして“その向こうへ”を演奏し終えると、まさかの4分余り。そこで“STAY GOLD”のカヴァーを即座に投下してステージを降りるまで、はち切れんばかりの気合いをただただ音の塊にしてぶっ放して駆け抜ける、これぞ10-FEET!という全力の生き様だった。
そして、関西に18年ぶりに帰ってきたHi-STANDARDである。3人が登場するや否や怒号のような歓声で迎えるアリーナに、難波が「帰ってきたぜ大阪!」と、短くも感慨深い言葉で挨拶する。今ツアーは毎公演セットリストが異なるのだが、この日の号砲は“GROWING UP”。95年の『GROWING UP』のラストを飾った曲だが、「退路を断って、新たな旅を行く」という決意だった歌が、今再び瑞々しいスタートを鳴らすものとして響いてくることに驚く。3人それぞれが経てきた音楽活動があった上で、音色も歌の深みもまったく新しいものになっているのはある意味当然だが、それ以上に、演奏し慣れた楽曲を披露するというよりも、真っ新な曲をやるかのように音のコミュニケーションを繰り広げる3人の嬉々とした姿に、信じられないくらいのフレッシュさが宿っているのである。特に、一打一打がズバリと切れ込んでくる恒岡のビートと、歌を食い破るかのようにザクザク鳴り響く横山のギターが重なった時に生まれる音のスピード感が凄まじい。BPMの話じゃなく、とにかく音の猛進性がとんでもないのだ。ハイスタとともに年齢を重ねた世代から、今まさにロックと日々を過ごしているキッズまでが、「あの頃のハイスタ」云々といったノスタルジーや幻想を一瞬で吹っ飛ばされた想いだっただろう。2017年の今まさに転がり続けている現在進行形の3人を見せつけるだけだ、という瑞々しく真っ直ぐな爆走感だけがここにあるのだ。築き上げてきた栄光も、表舞台に立つことがなかった長い時間も、今ここではまったく関係ないのだろう。その潔さと、とにかく今この一瞬に自由で在ろうとするハイスタ美学が一切変わらないからこそ、まさに「強くてニューゲーム」のような生まれ変わり感がひたすらフレッシュに鳴っている。誰の手にもハイスタを委ねず、たった3人だけで守り続けられたHi-STANDARDだからこそ、自由という言葉を最もそのままの意味で使うことができる。ああ、これぞハイスタだ。
2曲目は“We’re All Grown Up”。進んでいこうとする男の決意を鳴らした“GROWING UP”に続いてこの曲が演奏されることで、長い月日が経ったことと同時に、そのどれもがひとつの線上で物語になっていることが実感できる。一旦は途切れたかのように見えていたバンドの道のりも、3人の男それぞれの人生の上ではずっとひとつの線で繋がってきたものなのだ。だからこそ、もう過ぎた過去を一切拠り所にせずこの一瞬に向き合っていく。その潔さこそが『THE GIFT』というアルバムという作品の核にあったものなのだ。
さらに“All Generations”“New Life”を畳みかけた後、幅広い世代の観客がハイスタを聴いているのだということに触れ、子連れのファミリー席に座るチビッ子達に向かって「君達の本当のふるさとはお父さんの金玉なんだよ」と大笑いしながら語り掛けた横山。それを聞いて「パンクロックのショーを観にくるっていうのは、そういうことでしょ!」と賛同する難波。それをただただ爆笑しながら見ている恒岡。それを見た近くの中年男性が「ハイスタ変わんねえな!」と言いながら笑っていたが、まさにその通りで、この3人から生まれる空気と会話と自由奔放さは一切変わらないまま、だからこそ音楽も歌も自由に変わって進(深)化していける――最早、バンド論の本質自体を実感させるようなライヴである。「本当のふるさとは金玉」というMCがそもそも準備されていたものだとは思わないが、しかしその後に演奏されたのが“Hello My Junior”から“TENNAGERS ARE ALL ASSHOLES”だというのは、ちょっと完璧すぎる物語である。成長した、大人になった、親になった……その上でもなお、馬鹿みたいに自由で在り続けようとする。最高だ。
その楽しさにさらに昂ったかのようにギアはトップに入り、難波の歌がさらに伸びやかになっていく。特に凄まじかったのは“CALIFORNIA DREAMIN’”で、グッと力感を増した歌と猛進するビート、テンポが落ちるセクションでの泣きのギターソロというコントラスト――つまりは3人のキャラクターがクッキリと浮かび上がったアンサンブルと、つんのめる寸前のようなギリギリのスピードの中に、半端じゃない緊張感を持った音のコミュニケーションがあった。この曲の演奏後には難波と横山がごく控えめに手をパチンと交わす場面もあったが、その全部に、言葉にならないほど興奮した。それはきっと周りのオーディエンスも同じだったのだろう。明らかに、その中盤以降の熱気と合唱と拳がデカくデカく膨らんでいった。
後半のMCでは、難波が「音楽は遺伝子のように受け継がれてる。10-FEETは何度も『ハイスタがいなかったら俺達もいなかった』と話してくれてるけど、それはつまり、10-FEETの音楽の中にハイスタも入っているっていうことなんだよね。そうやって繋がっていくんだ」と話していたが、ハイスタよりも下の世代のバンドを多くゲストに迎えている今ツアーは、そうして確かに受け継がれているものがあるというロマンと誇りを生々しく実感できている機会なのだろう。自分にだけ与えられたものがあると歌い駆け抜ける“The Gift”が本編のラストに鳴らされたが、その主題だけに限らない、もっと大きな意味でのギフト――人から人へと繋がれていく想いと絆が終始響き渡っているライヴだった。それはきっと、あらゆる世代が入り混じった観客達に対してもハイスタが感じているだろう。自分達の音楽が確かな線になって人々を繋いでいる実感と喜びが、大阪城ホール全体を包み込んでいた。ガシガシと全身を奮わせるような動きでギターに向かって行った横山も、後半に向かうにつれて大きな歌を解放していった難波も、ドラムソロのパートでは思わず「ダーッ!」と声を上げていた恒岡も、ハイスタの音楽そのものが繋いだ絆の塊を前に、心底興奮していたのだと思う。その姿と音に昂った観客がそれぞれ拳で応え、それに応じたハイスタがさらに高く跳んでいく……そんな熱気の往来がひたすら巨大化していく28曲だった。まだまだ巨大化するであろう絆の渦、さあどこまでいくか。今の3人をもってすれば、そこに限界はないだろう。
Text by 矢島大地(MUSICA)
Photo (Hi-STANDARD) by Teppei Kishida
Photo (10-FEET) by Daisuke Hirano