フロアは立錐の余地ナシ、観客はギュウギュウの鮨詰め状態、ライヴが始まればグチャグチャとなり、汗、汗、汗の匂いだけが充満するのみ。Hi-STANDARD(以下ハイスタ)のライヴ中に「おっさん、死にそう!」という悲痛な叫ぶ声さえ聞こえてくるのだから、もはや笑うしかない。不便や苦痛を分かち合い、みんなで最高到達点に行けるこの世の天国がライヴハウスである。そう、死にそうなくらい楽しい場所にあのハイスタが帰って来た。しかも、インディーズ・バンドの聖地にして登竜門である下北沢SHELTERでライヴを行うのは、なんと約18年ぶり!
ハイスタのニュー・アルバム『THE GIFT』ツアーは残り2本。今ツアーでは各地で対バンを招き、ハイスタに多大なる薫陶を受けたバンドたちが名を連ねていたが、今日出演するHOT SQUALL、DRADNATSの2組もそう。ハイスタ好きを公言し、ハイスタ遺伝子を受け継ぐ血統中の血統と言えるチルドレンだ。ゆえにこの日は「3ピース・メロディック祭り」と命名したくなる濃すぎるラインナップとなった。
まずトップを切ったのHOTSQUALLだ。アカマトシノリ(Vo/B)、チフネシンゴ(G/Vo)、ドウメンヨウヘイ(Dr/Cho)がステージに現れると、演奏前から気迫なのか、興奮なのか、体中からこの日に賭ける意気込みがビシビシ伝わってきた。無理もない。「18歳の頃からこの瞬間を楽しみにしていた」とチフネは語っていたけれど、彼らがどれだけこの日を待ち望んでいたことだろう。その心中に思いを馳せるだけで、泣けてくる。実際に演奏が始まれば、気迫と興奮と情念入り交じった超絶にエモーショナルなライヴを展開した。「心臓を爆発させろ!」とアカマが叫ぶと、「With The Burning Heart」(*最新作『ALRIGHT!!!』収録曲、作品自体も素晴しいので是非!)を放つ流れを含め、メンバー自身が口から心臓が飛び出そうなほど魂全開のパフォーマンスで突っ走る。また、終始両目をカッ開いて豪快に歌い上げるアカマはMC中に感情が制御できなくなったのか、今にも大声で泣き出しそうな、ぐっちゃぐちゃの表情を見せる場面もあった。ラスト曲は英語詞の中に「人生を笑え!」という日本語フレーズを織り込んだ代表曲「Laugh At Life」が飛び出し、エモさ特盛りのHOTSQUALL節を見せつけた。遂に夢だったハイスタとの対バンが実現した彼ら。今日までずっと走り続けてきたバンドの成長記録とプライドのすべてを全注入した完全燃焼っぷりにグッと来た。演奏を終え、「夢の続きで会いましょう!」と笑顔で言い放つチフネ。夢のような現実が過ぎ去っても、俺たちは終わらない夢をハイスタから貰ったんだ、と言っているように受け取れた。
続いて、DRADNATSの登場だ。彼らと出会ったのは1stアルバム『New Unseen Tomorrow』のタイミングで、とにかく突き抜けたメロディの良さに驚き、メンバーに素晴しい作品だ!と暑苦しく語った記憶がある。あれから9年の月日が流れ、彼らにも何度かの転機が訪れた。大きなトピックはハイスタと同じレーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」に移籍し、Ken Yokoyamaプロデュースで3rdアルバム『MY MIND IS MADE UP』を発売したこと、もう一つはバンドの屋台骨を12年支え続けたオリジナル・メンバーのトノ(Dr)が昨年脱退したことだ。KIKUO(Vo/G)、YAMAKEN(B/Cho)に加え、新メンバーの笹森健太郎(Dr)が姿を見せると、HOTSQUALLとは対照的に自然体でステージに立っているように映った。3曲目を終えると、KIKUOが「ハイスタとの対バン、実感が沸かない」と零すと、YAMAKENは「俺はまだ沸かない(笑)。今日もハイスタのリハを観ながら、ビール飲んでた」と言う始末。とはいえ、新3ピースによるタイトな演奏は熱がこもり、バンドの馬力は増しているように感じた。さらに、KIKUOの魅惑のハイトーン・ボイスと蒼いメロディ・ラインを観客の懐深くにブッ刺す"らしさ"も全開。そして、中盤には「ハイスタの楽曲で特に好きだけど、なかなかプレイしてくれないから、自分たちでやる!」とYAMAKENが言い、自らリード・ヴォーカルを務める形で『ANGRY FIST』収録曲の「Spread Your Sail」が炸裂! このサプライズに会場も大沸騰し、YAMAKENの味のある歌声にも惚れ直した。後半には「3ピースのメロディックはハイスタだけじゃない!ハイスタを倒すから!」と堂々宣言するYAMAKEN。その鼻っ柱の強さもデビュー時からブレてない。ハイスタに憧れたからこそ、あの人たちを絶対に超えたい。その負けん気を剥き出しにした熱情的な演奏にシビれまくった。
20時53分、ハイスタの難波章浩(Vo/B)、横山健(G/Cho)、恒岡章(Dr/Cho)のメンバー3人が定位置に付くと、会場の雰囲気を窺うように新作『THE GIFT』のインスト・ナンバー「Pacific Sun」で幕開け。観客の体をじわじわと揺らす一方、オイ!オイ!という特大のコールが沸き起こる。それから一気に95年発表の『GROWING UP』表題曲へ突入する流れにはビックリ。22年という歳月をヒョイと飛び越え、歓喜の渦を作り上げていく。この2曲を聴いただけで、ハイスタが今ツアーでとんでもない進化と成長を遂げているんだなと痛感した。次の「All Generations」に入ると、難波が歌ってる途中にフッと笑うシーンもあり、リラックスした状態でこの場を楽しんでいることが伝わってきた。メンバーの表情が手に取るようにわかるのも、小バコならではの良さだろう。
曲が進むにつれ、新旧織り交ぜたセットは不思議なほど違和感がない。違和感がないどころか、3ピース・メロディックの魅力を腹の底から味わう結果となった。改めて言うのもなんだが、パンクという音楽ジャンルは至極シンプルで、3ピースはそれを再現する最小単位。だからこそ、メンバー一人ひとりのキャラクターや演奏力が肝になってくる。恒岡の切れ味鋭いドラミングは、ハイスタの心臓部かつエンジンという重役を果たし、代替不可能のセンスを猛アピール。その上で、難波と横山のフロントマン2人によるヴォーカル/ハーモニーの素晴しさに耳を奪われっぱなしだった。なによりポップかつキャッチーであり、2人の歌の絡みはバリエーション豊富。そこから生み出されるシンガロング感は小バコだろうと、アリーナだろうと、場所を問わない強度を誇っている。英語詞にもかかわらず、拳を突き上げ、みんなが歌える、歌いたくなる、歌わずにはいられないシンガロング・パートを楽曲の随所に張り巡らせている。現在はNAMBA69、Ken Yokoyamaとそれぞれのバンド率い、そこでリード・ヴォーカルを担う2人がハイスタで一つになるというマジック。そのマジックで紡がれる新旧の楽曲群が以前と比べて、より一層眩しい輝きを放つのは必然と言えるかもしれない。
何を言いたいかと言うと、今のハイスタはもっとも脂が乗っているということ。失礼を承知で言えば、脂が乗り始めた瞬間に立ち会えたような感動さえ味わった。換言すれば、ハイスタはようやく我々の「日常」に帰って来たのだ。あるいは、戻る作業を今ツアーでやりたかったのかもしれない。「AIR JAM 2011」再始動以降、彼らは大きな会場に出ることが多かった。そこには特別な空気があった。中盤過ぎ、会場は観客の湯気により、メンバーの姿が蜃気楼の中で揺らめくラクダ状態という有様だった。それを見かねて、ライヴ途中に換気を入れ替えるために会場の扉を開け、1分ほど演奏を中止するという粋な計らいもあったほど。横山はたまらず「俺たちはパンク・バンドだぞ、普通にしてくれ!」と苦笑いしつつ、懇願していた。ハイスタを下北沢SHELTERで観る機会なんてめったにあるものじゃない。普通、でいられるはずがない。どうしてもスペシャル感はつきまとう。しかし、換気をする前に「空気を感じるのがライヴハウスだからさ」と横山は言っていた。それはハイスタ自体を空気のように、ごく当たり前のものとして感じて欲しい、と言っているようにも思えた。事実、ペースはゆっくりだけど、これからも続けていくからと、きちんと宣言してくれた。これ以上に嬉しいことはない。
今日の私的ハイライトは本編を締め括る「ANOTHER STARTING LINE」〜「The Gift」という2曲の流れ。どちらも大好きな楽曲であり、前者は告知ナシで店頭販売された復活シングル表題曲。ハイスタにしては長めの4分台の曲調だが、ライヴで聴くと、演奏は骨太なパワフル感に満ち溢れ、聴くだけでグッと背中を追わされるような高揚感に包まれた。後者は難波の歌メロの裏で横山が「ナナナ〜♪」とコーラスを取るハーモニーが絶品! 音源以上にライヴで威力を発揮する楽曲だなと感じ入った。
そう言えば、「ハイスタは下北沢で生まれたバンドだから」と難波がライヴ中に言っていた。バンドの出発地点である故郷で、再び鳴り響いたハイスタの音楽。ロマンやドラマを遥かに超えた、圧倒的なる「日常」を下北沢SHELTERに届けてくれたハイスタに心の底から感謝したい。
Text by 荒金良介
Photo (Hi-STANDARD) by Teppei Kishida
Photo (HOTSQUALL / DRADNATS) by 半田安政(Showcase)